| 今日11月23日は高山市民健康マラソンという高山市主催マラソン大会が中山競技場で行なわれる予定である。うち の家族では次男と三男が少年団活動を通じて前々からエントリーしていた。僕は代わりの医者もいないし、今日一日は 子供のお供に徹するつもりだった。ところがこんな事になるなんて・・・ （第一話）誕生日のプレゼントは何処に・・・ さて話はさかのぼり、4日前19日は三男集登の誕生日であった。集登には僕に買ってもらう事を前々から心に決めて いた大事な誕生日プレゼントがあった。 それはポケモンカードゲームDPエントリーセットという少々長い名前のカードゲームであった。定価は2000円だ。 さて19日の仕事終了後に、お父さんこと僕は集登を連れておもちゃ屋に行った。ところがそのカードゲームは1件目の おもちゃ屋で売り切れ、2件目も売り切れであった。 最後の綱の3件目の大型おもちゃ屋店でも予想通り売り切れだ。店員さんに聞くとこれは大変な人気商品らしい。 店頭に並んだ途端売り切れて、もう1ヶ月以上予約があるにもかかわらず、入荷が無いと言う。もちろん次に何時入 荷されるかは全く不明で、既に製造中止かもとまで言われた。  それを聞いた集登は、大きな目にたちまちうるうるしだした。集登は我慢強い所がある。じっと赤目で悲しさを堪えて いるのだ。 その姿を見て一緒に悲しい気分となった僕は、突然一つのアイデアが心に浮かんだのでした。 （第二話）マンクリするお父さん その日の夜、家族が寝静まってから、僕はこっそりとインターネットのオークションサイトを探った。そして意外に簡単 に誰にも知られないままネットを通じてそのポケモンカードゲームを手に入れる事ができた。 そして翌々日宅配便で送られてきた商品をさくっと受け取ると、中身を確かめ、こっそり一等賞の札を付け車の中に 隠しておいたのでした。 さて今日マラソン大会の日がやってきた。僕の作戦を実行するには、自分も大会にエントリーしなければならない。調 べたところによると大会最後の種目である健康完走マラソンには当日エントリーが可能との事であった。 しかしそれには８時半から９時までの間に大会事務所で登録を済ませゼッケンを受け取らなければならない。 ところが悪いことにちょうど８時に仕事の連絡が分娩室から入った。聞けば分娩直後の方の出血が止まらないとい う。僕は焦った。仕事に手間取るとエントリーできなくなる。そうすればお父さんこと僕の作戦は崩壊する。 それでも僕はさすがだ（自分でこう書くのもまたさすがだ）。すかさず分娩室に向かい妊婦さんの出血を止めると、大 急ぎで大会会場に向かう。 そしてタッチの差で当日エントリー受付に間に合った。こうしてお父さんのマンクリはここまで無事終了した。 （第三話）お父さんの誤算 １０時過ぎに、次男と三男が出走する３年４年生部門が始まった。４年生の希太は元気が無い。一方三男集登は３年 生なのになかなか早い。結果は集登が１９位、希太が１２１位だった。 実は家族内に誰か一等賞が出ないと、お父さんの作戦は失敗する。    僕は自分が一等を取る事を決意した。同時に走るランナーは２００人近くいる。しかし僕には勝算があった。 というのは僕のエントリーする健康完走マラソンは順位よりも完走することが第一とされており、主に子連れの親子な どが出走する部門だったからだ。距離も２ｋｍしかない。 いくら僕が既にいい年の親父だとはいえ、山で鍛えた体力もある。子供連れには負けないぞと思っていたのだ。 ところがその野望は出走準備段階で打ち砕かれた。おそらく当日飛び入りと思われる高校生集団が２０人ばかり突 然？参加してきたのだ。 それも陸上か何か運動していそうな高校生ばかりだ。これは強敵現るだ。僕は勝つために高校生集団より早く走らな ければならない。一気に緊張感は増し、状況は追い詰められた。 （第四話）ある劇走親子のお話 ついにレースは始まった。予想通り高校生は早い。上位１０人の高校生集団に僕は着いていくことで精一杯だった。 それでも僕はあきらめない。１等を取らないと作戦は失敗する。僕は先頭集団に最後まで何とか食らいつき、最後の直 線で追い抜く作戦だった。 ４位でトラックに戻る。周囲は全て高校生だ。 残り２００ｍで根性を出し、２位にまで上がった。しかし僕のがんばりもここまでだった。高校生の心肺能力にはそうは 勝てない。最後失速し結果は４位に終わる。２００人中４位で高校生を除けば１位なのだが、負けは負けだ。僕は少し 落胆した。  さてその日の午後戦い終わって家族は家に戻った。お情けの賞状は僕が本部席から受け取っていた。戦況報告は それぞれだ。 残念なことに子供たちは僕の全力の走りを見ていなかったという。これまた少しむっとする。もうカードゲームはお蔵 入りにしてしまおうかと一瞬思ったが、聞けば集登は３年生の中では１番だったという。そうかそれなら一等賞だ。  そこで今日貰った賞品だよと、僕は隠しておいたカードゲーム入り袋を取り出した。これはお父さんの字みたいだぞ、 と言いながら集登は袋を開ける。 中からは手に入れる事が出来ないはずだったポケモンカードゲームDPが現れた。 あっという声が上がり、続いて兄弟が瞬間皆沈黙した。 そして僕はすかさず「これは集ちゃんがんばったから、きっと神様がいい事をしてくれたんだねえ」と声をかけた。兄弟 はなんでなんでと大騒ぎだ。 そしてしばらくしてから、集ちゃんは小声で僕に「お父さん有難う」と言ってくれたのでした。   |